日本のIT企業のアカデミアにおける存在感の話

Why a deep-learning genius left Google & joined Chinese tech shop Baiduという記事を見て思ったこと.
Andrew Ngという,ディープラーニングというビッグデータ解析の注目されている手法でトップを走っていたような人が,GoogleからBaidu(百度)という中国のGoogleのパクリのようなサービスをやっている会社の研究所に移った,という話().Baiduの羽振りの良さなど,Baiduがシリコンバレーに研究所を建ててディープラーニングに賭けている様がひしひしと伝わるようなことが記事に書かれています.

これ見て思ったことは,日本のITの会社がアカデミックで存在感がないのどうなの?という話.

コンピューターサイエンスの学問の世界は,雑誌(ジャーナル)じゃなくて,国際学会がメインの戦場で,権威のある会議に通すことが偉い業績として認められます.その国際学会につく企業スポンサーを見ていると,あぁこの業界はビジネスの人たちから見ても戦場なんだなぁ,というくらい,様々な分野のリーディングカンパニーがずらりと揃っています.
例えば,この間あったKDDというビッグデータ解析で最も権威のある会議のスポンサーを見てみると,
一番偉いスポンサー:Bloomberg,
二番目に偉いスポンサー:BOSCH, facebook, Microsoft, rapidminer(ビッグデータ解析のソフト開発の会社)
三番目に偉いスポンサー:amazon, at&t, Baidu, booking.com, Google, 華為, Goldman Sachs, IBMの研究所, Yahoo!の研究所etc…
などなど,ちょっと前まで,有名な研究所を持つアメリカのIT企業とGoogleしかスポンサーにいないような感じだったのに.ITから重機金融まで,いろんな業界からガシガシ乗り込んでる様が見て取れます.ほかにもデータを扱うような会議であるVLDBだと,そろそろアメリカで上場するAlibaba(中国のe-コマース)とかいたりして,まさに戦場みたいになってます.

こう見ると,日本企業はやっぱりいないなぁとどうしても思ってしまうんですよね.IT業界はアメリカが強いという話ですが,冒頭の記事のように,後発の中国系IT企業も研究開発に投資を始めている様子が,会議のスポンサーとか眺めているとよく見えてくる訳です.

Googleなどのリーディングカンパニーは,もはや世界一になることにはあまり興味が無くて,まだ見ぬ「近い未来」を作ることに興味があるきがしています.それを牽引するであろう研究開発に莫大な投資をしている様が会議のスポンサーとか論文とかを通してよく見えます.Googleで言えば,自動車とか,Glassとか,Amazonで言えばヘリコプター使って30分で物を届けるシステムとか.こういう「今はないけど近い将来の普通を目指したもの」は,ビジネス頑張っている人たちが頭つきあわせて議論するより,缶詰になってプログラミングするより,研究開発から出てくるような気がするんですよね.後発の中国系の企業ですら,冒頭の記事のような長期的な研究に莫大な投資をしていて,主戦場は次の四半期だけじゃなくて,5年後10年後を見据えた研究でもあるのかなと,

翻って,日本のIT業界は,銀行のシステムを作ったりする土方のような企業と,バラエティ番組を一生懸命見ていたような人たちの時間を奪い合うエンタメ系新興企業の2つくらいが大きく分けて頑張っているのかな,という感じがします.前者の方は研究開発なんて最初から知らないと思っているか,最近余裕が無くなってきている印象で,後者はどちらかというとコンテンツやビジネスドリブンで,特に長期的な視野をもった研究はなにそれ?といった印象を受けています.あとはボコボコ大学生の思いつき一発芸みたいなアプリを作って自称「ベンチャー」を名乗っている勢力,という印象.

特に後者のエンタメ系企業は,最近落ち込んできたとは言えども,まだ現金あるし新興勢力なんだから,次の四半期のPLに乗るようなやや受けアプリの開発だけじゃなくて,こういう長期的な視野にたった,5年後10年後くらいの「未来の普通」を目指すようなことをやってもいいんじゃないかな,って思っております.ビジネスやコンテンツドリブンから,技術ありきで,その社会へのインストールをビジネスの人が考えるような世界標準スタイルになってほしいなぁと思います.というかそういうことしないと,日本のIT企業は,アメリカ企業と中国企業が盛り上がっているのを横目に,死に体になるのが待っている気がします.こっちのほうがビジネスインパクトもあるし,ワクワクしませんかね?そんな感じのことをそろそろ大学から企業に行く身として思います.

働き始めたら「研究所立てたい」って言い続けようかな笑.ちなみにColingという自然言語処理の有名な会議が2016年に大阪,SIGIRというGoogleの検索や,最近ならちょっと前のGunosyとかDeNAハッカドールとかのようなリコメンデーションサービスのような情報検索と呼ばれる分野の最も権威のある会議が2017年に東京であります.こういうところのスポンサーになれるような布石を打っていきたいですね.日本で会議して,MicrosoftとかIBMみたいな日本でもプレゼンスのあるグローバルジャイアントと,中国系企業しかスポンサーにいないのは,恥ずかしいなぁと個人的に思っております.

ちなみに,ウェアラブルディバイスのようなものが来たら,VRの実現を志すような,CGとかインタラクション系にも流れがくるのかな,と思っておりますが,そっちの方向で最も権威のあるSiggraphという会議のスポンサーはまだおとなしく,地味にEPSONとかいたりします.補足ですが,この分野はディズニーの研究所とかが実は超強いです.参考まで.こういうの任天堂とかもやってほしかったなぁ.

Slideshareでつまんない発表シェアして内輪で盛り上がってるくらいなら,会議に出せ,って強く思う.