連戦連敗

連戦連敗

連戦連敗

連戦連敗/安藤忠雄
僕の人生を大きく変えた一冊。
1文から学ぶことが4つくらいある本。


前回の建築家たちの20代でふっと出した本。
それ以来読みたくなって、もう一回読み直してみた。


建築家はコンペを戦う。
「ここに建物建てたいんですけど、アイディア募集」という要項がでて、
それに図面を引いて、アイディアをもって応募する。
見事1等になれば、それがビルトされる。


建築家のコンペの勝率は、どんなに世界的に著名な建築家でも、よくて1割2割。
それくらい厳しい戦いだ。


当然のごとく、勝ちの裏にはたくさんの負けが存在する。
「数々の“敗戦”を体験してきた」「挑戦は決して無駄とは思っていない」


安藤忠雄の“敗戦”の記録がつづられたこの本。
どんな思想の元、どんな論理を導きながらこの模型を作ったのか。
それこそ、勝率なんてたかが知れていると(数字的に)わかってもいるのに、
ひたすらにその場所を訪れ、歴史を調べ、徹底的に考え抜く。
そしてその答えとして、一個の建築の原案を作る。
で、落ちる。
出てくる図面や模型は全部アンビルト。空想でしかない。
しかしながら、敗戦から何を学んだのか、というところまで深く根を下ろす。
この一連の敗戦から何を学んで、どうして負けたのかをとらえる。
そして「敗戦は決して無駄ではない…」



6個出して、6個落ちる。
それでも挑戦する。
「コンペは、自分の建築、自分自身を探す過程だ。この思考の蓄積こそが創造である…」



「建築家とは厳しく、困難な生き方だ。自分の思い通りに行くことなんてほとんどない。
日々闘いである。でも、だからこそ建築は面白い」
逆境での挑戦こそ真の創造である、と冒頭に主張する安藤忠雄は、
建築の意味合いが、常に逆境であることを暗に主張する。
思い通りになんて行かない。でも、捨てないものがたくさんある。
建築とは、闘いである。


こんな話が紹介されていた。
ルイスカーンは73歳の生涯をほっとかれるようにして閉じた。
便所で2日ほど放置されているところを発見される。
残っているのは計画途中のプロジェクトの山と借金。
それでも、その挑戦が、建築家としての生きざまの表れなのだ。
挑戦することこそが、カーンにとっての至上命題なのだ。



極端な話、こんな生き方で自分は構わない。
何か一つ信念を持って、構築された理想を形にするために、
あるいは理想と考えをすり合わせたものを形にするために、考え抜く。
たまに悪魔に魂売りたいな、とか思うようなそんな生き方。


小沼ようすけがこんなことをtwitterで言っていた。
「ギター練習中。。。ギター、海、飯、寝、ギター、海、飯、ギター、寝、ギター、今。 最近仕事続きだったからこんな一日はなんかほっとする。 ギターの不完全なとこがほんと好きだ。」
こんな不完全なものを心から愛す。
小沼ようすけの持っているものとは少し違うけど、
安藤忠雄の建築家という職業感も不完全から出発する点は変わらない。
こういうのを貴いとどうしても思ってしまう。


建築的な話。
安藤忠雄の持つ理想が、
自然の回復っていう大テーマがあって、
内と外の概念の転覆
身体性
というのに分類される気がする。


何をとっても、光を強調する。
自然光をうまく取り入れ…という発想。
内側が外側っぽくなる。
安藤忠雄が作った住宅で、住宅の連続性に答えを出したものがある。
一階と二階の階段を外に出してしまう、というものだ。
住宅という一個の連続性に対して、そうでなくても住宅だろう、という答えだ。
外をも含めて住宅とする。
光の教会も同じような原理だと思えば合点がいく。


で、それを体で感じる、ってのがもう一個のテーマ。
沖縄の商業施設の空調を全部自然の調整に任せる、というのがあった。
これもこれで、自然なんだけど、問題は中にいる人で、
機械的に調整されたものじゃなくて、きちんとそれが体で感じられるように、というメッセージを込めている気がする。
というのも、幼い頃、瀬戸内の海によく遊んでいてどうこう、という話をしている。
その自然観の回復、というのは、安藤忠雄の建築のテーマであると汲んでもいいだろう。


いろんなアンビルトなものがおもしろい。
京都駅のコンペも内と外の構成で勝負していた。
鉄道によって分断されてしまった京都という町に対して、
連続性の回復、といったら、駅が一回内に入るものである、というのを消すしかない。
そこで開放的なものを選んだ、という。
ロジックはどうであれ、安藤忠雄らしい選択だといえる。


しかしながら、それゆえに、使い勝手が悪いものができるのが安藤建築の特徴であるといえる。
建物が建物であるというのに対して、あまのじゃく的な答えを求めてない人もいる。
それが理由でコンペに落ちることもある、というのは本人談で、それでも答えが出したいのだろう。


匿名性を帯びた建築が現代建築には多いそうだ。
要は、誰が作ったかわからない、作者の作者性を出したがらない建築。
そして建築も無国籍化する流れになりつつある。
しかしながら、安藤などの著名な建築家は、文脈主義というか、
その土地に何が立つのか、というのに対してとても慎重に答えを出す。
グランプロジェのもとに開発されるパリのコンペの話が
前の「建築家たちの20代」と含めて散見されるからかな。
とはいえども、結構文脈主義だなーって思う。
それに対してコンクリートで解答を出す安藤が結果論的に文脈主義なのかどうかはさておき、ね。


情報の時代、たくさんあふれかえる中で、先行きが見えない。
どうしていいかわからない。そんな時代を安藤は「主題なき時代」という。
そんな時代に、絶対的な自分の価値観を建築として打ち出す、安藤の戦い続ける姿は、
この本で汲むに値する。



連戦連敗。
この本を読んだときに、胸に刻んだ言葉。
なんとなくぼんやり進んだ大学の2年間に、真剣に取り組んだ試合の数が少ないことに気づいた。
負け戦もしてない、いつの間にか勝てる試合しかしてない。
そんなことに気づいて、勝負をきちんとする、というのを今年の目標にした1月。
まぁまぁ、負けっぱなしですよ笑。
びっくりしましたね。結構いろんな勝負しましたけど、まぁまぁ負けっぱなし。


まずは、自分の問題意識、美意識の構成から。
いつでも逆境。それだけは把握している。
でも、そこから這い上がろうとしなければならない。
問題意識を解決して、新たな問題を手に入れなければならない。
残る今年の目標は、一個結果を出すこと。
この本を読んで、そう思い直せました。


人生を変えた一冊。
気が向いたら加筆修正を随時してるかも笑。
それくらいの本です。